漢方医の先生と一緒に、とある漢方薬により某重大疾患が“消えてしまった”という方の興味深いお話を伺う機会がありました。漢方薬の名前はブシ=附子、トリカブトです。猛毒として知られている植物ですよね。漢方医の先生によると、生薬名としては“ブシ”で、毒としては“ブス”とも呼ばれるそうです。

綺麗な花の根には毒があるのです。

漢方医の先生曰く、毒と薬は紙一重の場合が非常に多く、猛毒を持つものほど、有効成分が多分に含まれているのだそうです。人間にとって都合の良い影響を“薬効”と言い、好ましくない影響は“毒”または“副作用”と呼ばれる訳です。例えば、アヘンから作られるモルヒネは、麻薬の一種で、死に至らしめるほど非常に強い毒性を持つ一方、現在私たちが使用出来る鎮静剤の中で最も強い効果を持ちます。また、インカ時代には、コカの葉の抽出液で鎮静・麻酔をし、手術を行っていた史実がある一方で、コカから生成されるのは麻薬のコカインです。

附子も、人体にとって毒になるギリギリ手前の量を見極め処方できると、絶対的な起死回生の劇薬となるとのこと。効能がいろいろある中で、突出しているのが温熱作用です。体温、特に身体の深部の体温を劇的に上げる効果があるため、三途の川を渡っている人も、戻ってくることが出来ると言われるほど。中医学では、身体の冷えは万病のもとと考えます。身体の冷えを取り除くことで、現れている病状や症状が改善するという訳です。

ちなみに、ブスの話は狂言の演目としても有名なので、ご存じの方も多いのではないでしょうか?私の時代は小学校の教科書に載っていたので、その時にトリカブトという植物を知りました。生の附子は毒性がとても強く、そのまま口にすると神経を麻痺させ、呼吸困難、心肺停止となり死に至ります。附子の毒で顔の神経が麻痺すると、無表情の妙な顔つきになるため、それを指して“ブス”と言ったのが美人の対義語の語源だそうですよ。昔から、表情が豊かであることは、美人の大事な要素だったということですね!

【附子“ブス”】ある家の主人が、留守の間に貴重な砂糖を使用人たちに食べられないようにと、桶の中身は猛毒の附子で、風下にいるだけで死んでしまう、と嘘を言って出かけます。使用人たちは怖いもの見たさで覗き、それが砂糖と知ると全て舐めてしまった上に、主人の大事にしている掛け軸と茶碗をわざと壊します。そして主人が帰ってくると、『大事なものを壊してしまったお詫びに死のうと思って附子を食べつくしたのに死ねません』と、上手い言い訳をする話。